The Mothは、TEDのようにプレゼンターが登壇して語るイベントですが、人生にインパクトを残したパーソナルな体験を語る、というアメリカ発のストーリーテリングイベントです。プレゼンターはプロのコメディアン、ライターからその場でくじ引きで選ばれた庶民まで。 イギリス海峡をバスタブで横断する冒険譚から、少年時代の甘酸っぱい思い出話まで、光に寄せられる蛾(moth)のように、あなたもめくるめくストーリーに魅せられる事でしょう。
エピソードはポッドキャストやYouTubeで公開されていますが、この記事では100件以上のエピソードを聴いた僕が選りすぐった15のエピソードをご紹介します。笑いあり涙ありで、プレゼンターの気持ちをぐっと身近に感じられた時には、英語を勉強していて本当に良かったと思わせてくれました。
イベントはアメリカの他、イギリス、オーストラリアでも開催されており、加えてインド系やラテン系のnon-nativeスピーカーも登壇するので、多彩な英語に触れられます。YouTubeでエピソードが公開されているものは、字幕をOnにするとスクリプトが確認できるのでリスニング学習にも効果的です!
以上の理由から、The Mothは、英語を勉強している全ての人、また人生に余韻を残すような体験をしたい人にオススメしています。ではエピソード紹介します!
笑いたいときに ~Hilarious~
Empathetic Subway Screaming
奥さんと期せず離婚する羽目になり、ついていない男が、地下鉄で買ったばかりの食料品をぶちまけてしまう。更に追い打ちをかけるように他の乗客からクレームされるのだが…
ニューヨークの地下鉄でのちょっとした一幕を、とてつもなく面白くコメディアンのJeff Simmermonが語る。抱腹絶倒間違い無し!
Dale
屈折した独身アラサー女性が、ディズニーワールドで妹の結婚式に参列する。妹に先を越されやけくそになり、誰でも良いので相手を探そうと、(ディズニーキャラクターの)デールをナンパする話。
プレゼンターのJessi Kleinはプロの放送作家で、皮肉れたトークの表現がいちいち面白い。オチが本当に笑えます!
Joy
インド出身のAshokは、Kit Katを巡る学生時代のある出来事から、他人への恵みの精神を学ぶ。わずか5分10秒という短いエピソードだが、笑いとインスピレーションが圧倒的!
Go the %&# to sleep
Adam Manabachはベストセラー絵本「Go the f— to sleep(邦題:とっととおやすみ)」の作者。赤ちゃんの寝かしつけに悪戦苦闘する中、この過激なタイトルの絵本を執筆する。本のタイトルはネットで瞬く間にバズり、ベストセラーに。
絵本の誕生秘話と後日談がユーモアたっぷりで語られる。Adamのカジュアルな語り口は、リアルで活きたアメリカ英語の見本と言えます。
Samuel L Jacksonによる絵本の朗読はこちら↓
Pen Pal
娘の文通相手を探しているという友人に頼まれて、Borisは自分の息子を文通相手とする事を安請け合いする。ところが息子に断られ、自分が息子になり代わって9歳の少女と文通を始める、というストーリー。事の顛末が面白すぎます。
Data mining for dates
UCLAの院生Chrisは、大学のスーパーコンピューターを使ってマッチングサイト「OKCupid」のアルゴリズムを解析(リバースエンジニアリング)する事を思いつく。マッチ率が極限まで高くなる回答の組み合わせを導き出し、無数の女性の”運命の相手”としてデートを繰り返す事になる。地頭の良さを感じさせるウィットの利いたChrisのストーリーテリングは実に笑えます。
家族の絆 ~Family~
LOL
年頃の息子との接し方に悩む父親だったが、チャットツールを通じて会話が増えるようになる。そこで生じた”LOL”の意味を巡る大きな誤解を通じて、父子の絆を再認識する話。
このプレゼンターも実に巧みな話術で、ユーモアたっぷりかつエレガントに一連の出来事を語ってくれます。オチだと思ったら更に何度も盛り上げるトーク力が圧倒的!
Good news versus bad
Erinは12歳の頃、母親が新しい命を身籠ったというgood newsを知らされるが、それは実は不倫相手との子だというbad newsだった。大好きな父親から幸せを奪った母親と生まれてくる妹を恨むのだが…
重いテーマの話を淡々と面白く語ってしまうこの若いストーリーテラーの話力に、思わず聴き入ってしまいます。
Poppin’s Coffin
Poppinsと名付けられた仔猫を巡るある家族のエピソード。Jaedは、5歳の娘にせがまれ黒い仔猫を飼う。Poppinsと名付けられた仔猫は、木に登っては降りられなくなる世話の焼ける猫だった。JaedはそんなPoppinsに振り回されるが、やがて愛情が芽生える。ある日Poppinsが木から落ちて…
Jaedの張りのある英語は聴いていて気持ちが良い。英語表現が若々しく、正に活きた英語を学ぶのに格好のプレゼンテーション。特別ネコ好きでも無かったJaedと、面倒を見る事になった仔猫Poppinsの対話が素晴らしいです。
Movie Night
Nestorは15歳でグアテマラからアメリカへ家族と移住する。アメリカでの生活にカルチャーショックを受けながらも何とか適応しようとするが、家族そろって英語が話せず、ある日弟が学校で笑いものになってしまう。一念発起し、スペイン語のテレビを見るのをやめ、英語漬けの毎日を送る事にするが…
移民の国アメリカの側面が垣間見れる、家族愛に満ちた作品です。
戦争と平和 ~Recovering from war~
An impossible choice
フツ族によるツチ族の虐殺が続くコンゴでの、NGO職員による難民の救出劇。元々手配されていた112名の亡命を実行するか、全滅のリスクを犯して救出人数を増やすのか、Sashaは究極の選択に迫られる。同行したSheikhaから、取り残されている全員を助けるべきだと懇願されるのだか…
Sheikhaの真っ直ぐな瞳が、Sashaの言葉を通じて目に浮かんできます。僕がThe Mothの中でも一番長く余韻を感じたエピソードです。
Roadside
高校を卒業したDylanは、高給に誘われ在イラク米軍に入隊する。赴任先のKirkuk(キルクーク)は死と隣り合わせの環境だが、そこで知り合った地元の少年・Brahimを弟のように可愛がる。やがてBrahimは、米国への移民ビザを得るために米軍通訳を志す。反政府勢力に命を狙われる危険な任務と知りつつ、イラクでの悲惨な日常から脱出するためBrahimは通訳となるのだった。その後Dylanは任期を終え帰国。社会復帰に苦労しながらも何とか暮らしていくが、ある日 実弟のRoryが強盗により命を奪われてしまう…
イラクでの駐留体験、弟の悲劇に翻弄されたDylanに訪れる一片の光がまぶしい。
イラクの紛争を、イラク人の視点で語るエピソード、Leaving Baghdadにも心を動かされます。
冒険家たち ~Adventurous~
All at sea
冒険家・Tim FitzHighamが、イギリス海峡をバスタブで渡るという途方もなく馬鹿げた偉業に挑む話。英国女王に許可を得るくだりから、海峡でタンカーに巻き込まれまいと猛烈に漕ぐシーンまで、話が面白すぎて気を抜けません。The Mothの代表作とも言える作品です。格式高い英国英語も聴き応え最高!
愛、青春、挫折 ~Adolescence~
Prom
アメリカの高校で開かれるダンスパーティー・プロム(Prom)を巡り、人種の壁にぶちあたるインド系アメリカ人の物語。インド系アメリカ人の高校生Hasan Minhajは、転校生の白人少女・Bethanyと仲良くなる。お互い勉強を教え合ううちに二人はやがて恋に落ちる。高校生活最大のイベント・プロム(prom)にも二人で行く約束をし、当日、厳格な父の目を盗んでHasanはBethanyの家へ向かうが…
Hasanはプロのコメディアンだけあって、話が抜群に面白く、思わず引き込まれる。抑揚の付け方、間の取り方、言葉の選び方、どれを取っても超一流。 物語には、男子高校生の胸の高まりが色鮮やかに描かれている。プロムというアメリカ特有のイベントを通じて、アメリカ社会に根深い人種問題が浮き彫りになるが、最後に語られるHasanの父親の言葉が何よりも深い。
Beyond my ViewMaster dreams
ファイナンシャルアドバイザーとして名を馳せるAlvin Hallが自身の半生を振り返る。フロリダの農家で7人兄弟の一人として育ったAlvinは、ViewMaster(回転式3Dスライドビュアー)で外国を夢見る少年だった。貧しい幼少期を過ごしながらも学業を修め、ウォールストリートで職を得る。ところがある日レイオフ(解雇)され…
最後に語られるthe magical momentが美しい。
The Moth文庫版について
本としてしっかり読んでみたい、という方は文庫版「The Moth – All These Wonders」もオススメです。今回ご紹介したProm, An impossible choiceを初め、49のエピソードを収録して本として発行されています。
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